おれたちの伝承館を見学して / 武川貴美子

2022年の福島ツアーでは、「東日本大震災・原子力災害伝承館」を見学した。荒れた原となった津波の跡地には広い道路が出来ていて、突然ポツンと現れたのは多額の費用を掛けた豪華なハコモノ、それは伝承館というより、資料館である。写真、映像、ジオラマ、フレコンバックやタイベック防護服の実物等を駆使して福イチの成り立ち、経緯、震災記録、そしてイノベーション構想へと、見る者をいざなう内容と私は考える。そこに被災者の生の声はなく、これだけの災害はあったけれども、その後は新しい最新の技術を駆使した町が出来るんだよ(復興するんだよ)、というイメージだ。 「おれたちの伝承館」はこのハコモノから北にあるJR小高駅近くののんびりとした田んぼの中にある。見かけはごく質素な倉庫で、俺たちの伝承館という大きな看板が見える。事前にバスの中で倉庫の手作りリフォーム作業のDVDを見ていたので、沢山のボランティアの熱い気持ちがビンビンと既に伝わっていた。開館は暑い最中の2023年7月。まだ一年たってない。 

館長の中筋氏は以前から災害を伝える手段を考えていて、「もやい展」という展覧会をあちこちで開いていた。その時の作家の作品を中心として、23名の作家の作品が2階建ての建物に隈なく展示されている。絵画、版画、彫刻、写真などが中心で、各作家が「被曝・被災・災害」に通じて感じた事をそれぞれの表現方法で表している。 このような展示に慣れていないと、各作品は表現方法に統一性が無いので、なんだかバラバラな印象を受けて戸惑うかもしれないが、とても興味を惹かれると思う。

とにかく作品がユニークで面白いのだ。自由奔放!何かに誰かに忖度と言う態度はここには無い。言いたい事、表現したい事を堂々と発表する、だから私たちも堂々と作品を鑑賞するといい。各作品の前でまず作品を見て、解説を読み、作者の心と対話をしてもらうのがこの館の目的である。

まず倉庫に入ってすぐ脇の4つの骸骨の版画。これは福イチの1号機から4号機を意味しているという。その先には白い和紙で作られた牛頭骨と餓死した牛。

倉庫の中心に据えられているのは、まるでもののけ姫に出てくるシシ神のような木彫の作品。その神の頭の先には6本の指が高く天を突く。天にはシャガールを思わせる天井画が私たちの目を奪う。青い海に渦巻く津波の被害に苦しむ人々、動物たち、しかしその中心には希望を表すような白馬と笛を吹く赤い女性と赤い花。

2階に昇れば情感を削いだコンピューターグラフィック。細微にこだわる機械的表現で原子力発電のイメージをこれでもか、これでもかと壁一面に描いている。安心安全、事故は無いと言い切ったその精密機械は自然の前にあっさりと破綻した現実を見る。これらはほんの一部の作品である。

「おれたちの伝承館」は被災地となった故郷を復活させたい人々が自らの手で作った。住民の生活(魂)はこの土地と共にあり、失われた生活感や祭り等の憧憬への渇望とエネルギーは抑える事は出来ない。湧き水のように沸々と人々の心に湧いてくる。為政者が一番怖いのはこのエネルギーだ。叩いても叩いてもその力は削げない。だから社会の空気を先取りする芸術家は真っ先に淘汰の的となる。なぜなら、そのエネルギーの怖さを権力者は知っているからだ。

ハコモノの伝承館には、地震と津波で無くなってしまった地域の歴史を文字どおり水に流し、全く新しい刷新的な産業の町を作るという国の意気込みが見て取れるが、そこには住民の息づく復興のエネルギーが全く感じられない。

おれたちの伝承館にこそ、多くの作家達と鑑賞者が集う本物の復興の熱い思いがあり、それを保ち続けて欲しいと願う。

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